「パパ!パパ!」

縄を解かれた瞬間に、摩耶さんがこちらへと駆けてきます。

葵さんは器用にサバイバルナイフを回しながら、腰の鞘に収めました。

「『マンダム』といいましたか?」

「女、どこかで、見た、顔だな」

「私はただの家政婦です。それより、これは誘拐・殺人未遂です。あなたはとんだ悪党ですね」

「うるさい。俺は、弟の仇を討たなければ、はあ、はあ」

「あなたは外道に敗れました。悪党は地獄に落ちるといいでしょう」

「く、そ」

声が聞こえなくなりました。

きっと、死地に向ったのかもしれません。

「テレビによくある風景ですね」

私も少しだけ眠くなってきました。

隣に犬でもいれば、宙に舞いながら羽の生えた子供たちにどこかへと連れていかれるのかもしれません。

「外道、あなたは恩師、摩耶さんの心も救わなければなりません。不本意ですが、病院に連れていきます」

「あなたの心の大きさは銀河系に匹敵するかもしれませんよ」

「不本意と言ったでしょう。本来ならば、あなたの存在は私のライフワークの邪魔なんです」

「残念ですね。私としては、葵さんとも仲良くお喋りしたいんですよ」

「結構です」

葵さんは私を抱えると、工場の外にあるボコボコになった車に乗せます。

「うわ、めちゃくちゃボコってるやんか!」

摩耶さんはとても楽しそうに驚いていますね。

「恩師、何も問題はありません。少し事故を起こしただけです」

「あんたの運転でパパが怪我を悪化させたらどないすんねん!」

「ゴールドカードは取り逃しましたがちゃんと運転は出来ます。さらに言わせていただけば、飲酒運転など一度もしたこともありません」

お酒の力を借りずに車に致死量近い傷をつけるとは、只者ではありません。

修理をしないところを見ると、何があっても素のままの車が好きなのかもしれませんね。