「ふざけるな、後、一発だ、ぞ」

声が掠れて来ていますね。

さすがに、長くは保てないのでしょうか。

「私を死地に向わせる執念にはありがたみを感じますが、どの道、何もしなければ死地に行けますよ」

私も、彼よりは少し長くは現世に留まっていられるでしょうが、すぐに後を追うでしょう。

「ツルリンパさんはとても男気はありましたがね、報酬を用意していただけなかったのは残念でしたよ。それでは江口さんもお渡しできません」

「何の、ことだ?」

「ええ、私はお金に困っていたんですが、ツルリンパさんもお金に困っているようでしたよ。江口さんという方を人質に身代金で報酬を渡そうとしてましたが、それでは取引になりません。着払いが信用第一ですからね」

「身代金?お金に困っている?弟が、そんな事を」

声色に変化を帯びていますが、発声練習をして劇団にでも入りたいんでしょうか。

「おや、知りませんでしたか?」

「く」

おやおや、私が殺した事実だけ伝わっていたようですね。

誰が一部を隠蔽して伝えたのかは知りませんが、面白く過ごさせてくれましたよ。

「パパ!パパ!ウチが今、助けたるからな!」

「摩耶さんが縄抜け大脱出をしてくれるのなら、テレビ局から人を呼んでこなければなりませんね」

ですが、電話をかけたくても腕が動きそうにないですね。

「外道」

「おや、葵さんじゃないですか。摩耶さんの縄抜け大脱出を一緒に観察しませんか?」

私の頭の傍には、屋上の時と同じ迷彩服のまま立っています。

「お嬢様にちょっかいをかけてないかと後を追ってみれば、このような事になっていたとは思いもよりませんでしたよ」

「私としても、予想以上に血の味を味わえて心が安らいでますよ」

「外道とはいえ、恩師、摩耶さんの命を救ったことには変わりありません」

葵さんは腰にぶら下げていたサバイバルナイフで摩耶さんの縄を真っ二つにしました。