「すいません。今、目薬を持ってないんですよ」

目薬さえあれば、彼女の大きな目が再び見開く事になるんですがね。

「いきなり、何を言うておる?」

「あなたの目に異常を来たせば、とても心苦しいですからね」

「ワラワの目は至って健康じゃ。それよりも、そなたはこの場所に何をしにきたのじゃ?」

すっかりお話に夢中になっていましたね。

彼女との会話も続けていたいところですが、本来の目的も果たさなければなりません。

「あなたは強力な妖魔のようですが、同等の力を持つ笹原久遠さんを知りませんか?」

「そなた、久遠に何か用かえ?」

随分と険しい顔になっていますが、眉を寄せた顔も中年男性に人気が出そうですね。

「笹原冬狐さんと摩耶さんが久遠さんの身を案じてましてね、捕獲しにきたんですよ」

「じゃが、娘の姿は見当たらぬ」

「笹原さんはいちご大福味の魔草青汁製作で忙しいんですよ」

とびっきりのおいしさを誇る物が出来上がっていればいいですね。

「実母の面倒を自分で見ぬとはな」

「私に依頼してきましたからね、案じている事には変わりありませんよ」

彼女の家族への思いは、地平線を飛び越える物ですね。

「よかろう。そなた、久遠の力を知っておるか?」

「莫大な量の炎を扱う能力ですね」

一瞬で周りの妖魔を焰殺する程の力でしたか。

もし、地球のガスがなくなった場合、彼女が商売を始めれば一日で大金持ちになりかねないですね。

「うむ、そうじゃ。そして、大体の物は燃やしてしまうのじゃ」

「近辺の気温が変わるくらいですからね」

「気付いておったのか」

「秋の旬が食べ放題なのも解ってますよ」

「そなた、本気で捕まえる気があるのかえ?」

「私としては、仕事を後日に回す気はないんですよ」

放置すれば秋の旬が食べ放題になりますが、彼女が暴走に近い時ではないと気温が変化しないというのが不便ですね。

更に、冬の旬が楽しめなくなるのは如何なものかと思いますね。

四季の旬を楽しむためには、笹原久遠さんを捕獲する以外に手段はないですか。