「頼みました」

笹原さんは背中を向け、飲み終えた缶を投げ捨てました。

彼女は最高のコントロールを所持しているようで、缶がゴミ箱の中に流星の如く落ちていきましたよ。

その後、彼女が抱える闇と同化していくように、消えていきました。

私としては殺しのほうが向いているんですがね。

依頼である以上は、クリアしなければなりませんね。

「パパ」

今まで一言も発していなかった摩耶さんが私を見上げています。

もしや、私よりも先にいちご大福味を口にしたいのでしょうか。

「おや、摩耶さんもいちご大福味がそこまで気になりますか」

「それもあるけど、危ない事するん?」

「離れていた世界に足を踏み入れるだけですよ」

私の現実は死地に辿り着くために用意された場所にあります。

だからといって、今いる場所は、逃げている世界でも虚構の世界というわけでもありませんがね。

「あの姉ちゃん、何か切羽詰まってるみたいで怖いねんけど」

「おや、摩耶さんは本当に敏感ですね」

私よりも奥の奥まで覗き込んだ摩耶さんのほうが、覗きのテクニックがあるのかもしれませんね。

「彼女の胸の奥底は暗闇で満たされてますからね」

「お母さんの事、どうでもええんかな?」

「おやおや、関わりのない方の心配までするとは、聖女と呼ばれてもおかしくありませんね」

『聖女・摩耶』という宗教ビデオがあるならば、私は手に取ってしまいますよ。

「ウチ、お母さんおらん。でも、あのお姉ちゃんにはおる。何で他人のフリみたいな感じで物言えるん?」

「血の繋がりのある彼女こそが、理解者であり破壊者であるわけですね」

「パパ、ウチにはわからんよ」

「彼女にとって、家族に命がある事こそが幸せであるという方程式が通用しないだけですよ」