妖魔03(R)〜星霜〜

「ウチ、いらん子ちゃうやんな?」

摩耶さんは俯きながら、私のズボンを掴んできます。

「必要か必要でないかという議論に熱くなる摩耶さんは蛹の殻を割っているといってもいいですね。まあ、先ほどの事が聞こえなかったのでしたらもう一度いいましょう。摩耶さんの冷蔵庫付近から聞こえてくる声がなければ、ラーメンにナルトがないくらいに質が落ちる一日になりますよ」

「パパー!」

いつの間に習得したのでしょうか。

地上から私の首筋に捕まるほどのジャンプ力を見せてきましたよ。

「パパ!ウチ、めっちゃ嬉しい!」

「そんなに髭に顔をこすり付けることが嬉しいなんて、摩耶さんは永久脱毛とは縁がなさそうですね」

摩耶さんは、剛毛フェチという一風変わった世界に身を置いているようです。

「ウチ、パパの髭も好きやもん!」

「おやおや、髭にも評価をつけてくれるとは、摩耶さんの心の奥底は無限大ですよ」

今ある世界こそ、摩耶さんにとって自分の居場所だと認めているようですね。

スラム街にもいいところはありますが、摩耶さんは黒歴史にしておきたいのでしょうか。

私にとっては、力をつける場所となった故郷ともいえる場所ですがね。

「随分、小さな恋人がいますね」

とても可憐な声が後ろから囀り奏でてきます。

「笹原先生じゃないですか」

彼女は同僚であり、妖魔の笹原さんですね。

今日は白いコートを着ているようです。

「妹さんはご健在ですか?」

「空気を読めない赤城先生らしい台詞ね」

「私らしさを定めてくれるとは、感謝しますよ」

自分らしさとは何かを煮詰めるほどに考えていた私にとって、ありがたい言葉を与えてくれますよ。

「実は、先生に頼みがあって来たんですよ」

「それはそれは、あなたに頼りにされるなど、光栄といってもいいですね」

摩耶さんは二人の間に流れる物を感じ取れる程に敏感なのでしょう、私から降りましたよ。