妖魔03(R)〜星霜〜

「パパー、おかわりしてええ?」

「おや、食が進みますね。ですが、今月は煮干生活なんですよね」

先月、治療費などを払って、お金が飛んでいきましたね。

「また来月なんかあ」

「恩師摩耶さん!お困りのようですね!」

カウンター席でコーヒーを飲んでいた葵さんが、コーヒーカップを持ってこちらに身体を向けました。

隣には、机の上に身を伏せた飛鳥さんがいますよ。

「ちょ、ちょっと、声かけないでって、言ったじゃない」

「お嬢様、私の恩師が困っているというのに見てみぬふりができましょうか!?」

「良い事言ってるのは解るんだけどさ、私は出来るだけ関わり合いたくないわけよ。しかも、困ってるって、おかわりしたいだけじゃない」

仲睦まじい会話が聞こえてきますね。

「お腹を満たされていないのは事実です!恩師摩耶さんが餓死してしまっては、私の心は塞いでしまうでしょう!」

「食べてるんだから、餓死するわけないでしょ」

「店員さん!レジェンドハンバーグ、おかわりや!」

二人の会話に便乗するかのように、爽やかにおかわりのコールをしましたよ。

「あんまり店を荒らすんじゃないよ」

カウンターでパズルをしていた茶髪のお嬢さんは奥へと入っていきました。

「恩師摩耶さん、お代の事は考えなくていいんで、ゆっくりよく噛んで食べてください」

白い歯を見せた後、再びカウンターに向って飛鳥さんとの一時を過ごし始めました。

「パパ、後でウチの分、分けてあげるからな」

「摩耶さんの仏のような笑みは、銀河を征する事が出来そうですね」

「ウチが銀河やったら、パパはブラックホールや!」

「私にブラックホールの権利を与えてくれるなんて、摩耶さんのセンスは一段とかけ離れてますよ」

摩耶さんの人を褒めるテクニックを、見習わなければなりませんね。

「パパのええところやったら、いっぱい、いーっぱい、褒められるで!」

「褒め上手ですと、将来、かぐや姫になってもおかしくはないですよ」

「かぐや姫?何それ?」

「知りませんか?」

摩耶さんは日本昔話を見た事がないようです。

『ぼうやよい子だ寝んねしな』のフレーズを聞いていないのは、海に塩が含まれてないくらい不幸な事ですよ。