「お兄さん、少しだけこうしていていいかい?」

「ああ」

他の村人は、カメリアの夫の事をあまり口にしないのだろうか?

すでに夫はこの世にいないと、予想しているからか?

触れようとしたがらないから、カメリアも誰にも言えず、ずっと一人で溜め込んできたのだろうか?

昨日きたばかりの俺には分からない。

全てただの憶測だ。

「あー、お母さん!ずるいよ!」

羨ましい声が背中から聞こえてくる。

二人で後ろを振り向けば、チェリーとティアがいる。

「おや、チェリー、夜に外に出てどうしたんだい?」

「お話の時間だって、ティア姉ちゃんがきたんだよ」

今日からだという事をすっかり忘れていた。

しかし、ティアが皆の家を回ったのか。

皆が嫌そうな顔が思い浮かぶ。

「丞さん丞さん」

「何だよ?」

「鼻の下を伸ばした間抜けな者っているんですねえ」

「お前、一気に温度を下げるような事を言うなよ」

「え、ええ、ティアは丞さんと熱帯の夜なんて送らないですよう、絶対の絶対ですう!」

「脱水症状で悩まされろ!」

飛び膝蹴りを顔面に一撃食らわせて、シリアスな世界を終わらせた。

「さて、一日の締めくくりといきますか」

「お兄さん」

チェリーの相手を一時中断させたカメリアが呼びかける。

「ありがとうね」

「たまにはいいさ」

知り合って間もないのだが、カメリアが安らげる事は俺にとって嬉しい事であった。

「いつでもいいから家にご飯食べに来なよ。チェリーも喜ぶからさ」

「カメリアの料理をまた食べられるなんて感激も一入ってところだな」

「はは、来る時はおいしい物を用意しといてあげるよ」