麻生は考えこむように、じっと僕のネクタイのあたりを見つめた。

「……どっちを選んでも幸せになれるなんて、本当かなぁ」

「まぁ、どうだろうね」

「選択できるから、悩むわけじゃないですか」

「ほほう?」

「もし、荒川くんが野球以外に目を向けずに生きていけたんだったら、そのほうが幸せだったかもしれない」

麻生の言葉に、僕は自分のしたことを思い出した。
荒川に「それでいいのか」と問うた僕。

聞けば、野球好きの父親に、幼い頃からそれこそスパルタ式に野球を教え込まれてきたという荒川。

もし彼が、最終的に野球推薦を選んだのなら、それはそれでいいのだ。

「フライパンの上のタマゴ、みたいなさ」

昔、由紀が僕に言ったことを、そっくり口にする。
突然何を、といった表情をした麻生は、当時の僕のように首をかしげた。