「どうしてですか?」

僕の言葉に、麻生はちょっと不満げな顔をした。
彼女の満足そうな表情はあまり見たことがないかもしれない。

「どっちにしても、それはそれで荒川のためになると思うし」

「何だか、投げやりに聞こえます」

「そうかもしれないけど。でも、どんな道を選んだって、人間は何かしら後悔するよ」

チョークをケースにしまい、汚れた指先を軽く掃った。
人間は、というより、僕は、の間違いかもしれない。

「……なんだか、それって悲しいです」

麻生は口を尖らせた。

「ラーメン食べたあとにやっぱり餃子も食べたかったなって思うけど、結局餃子を食べていたとしても、太るかもーって思うってことですよね」

「何でラーメン……」

「そんな人生、悲しいです」

「ま、裏を返せばどっちを選んでも幸せにはなれる、とも言える」

僕は麻生の頭をぽんぽんと叩いた。

「僕ができるのは、荒川が彼自身の意思で彼の進路を決める手助けだけだよ。もちろん、麻生にも、な」