「荒川くん、野球推薦もらうのやめたんですか?」

「あぁー……」

「結構、噂になってますけど」

荒川が推薦を蹴ろうとしていることは、瞬く間に校内に広がっていた。
もともと野球部での活躍で目立っていた荒川は、この片田舎の高校で、ある種芸能人のように扱われている。

一年のときからレギュラー入りし、野球人口の少ない県とはいえ甲子園にまで出場。「荒川が大学でも野球を続ける」というのは、定説のようなものであった。

「芹澤先生はどう思います?」

「何が?」

「荒川くん、推薦もらうべきか蹴るべきか」

例に漏れず、麻生も荒川の動向には少なからず興味があるようだ。
しかし内容は野次馬根性丸出しなのに、心なしかその口調に本気で彼を心配する気配を感じるのは、やはり僕のひいき目だろうか。

「うーん、どうかなぁ」

僕は天井を見上げ、腕を組んだ。