「センター対策かぁ」
授業を終え、生物室でひとり黒板を消し後片付けをする僕を見ながら、麻生は窓に背を預けて、憂鬱そうに呟いた。
「もう秋だからなぁ。二次の対策と並行して、今のうちに慣れとけよ」
「はぁー。いやだなぁ」
「何がだよ。っていうかお前さ、先生手伝います、とか言えよ。目の前で先生が片付けしてるんだぞ」
「日直じゃないですし」
「あぁーこれだから今の若者は。ゆとり教育の弊害だよ」
ギシギシと床の軋む音が迫ってきて、僕の背中は麻生の教科書によって強く殴打された。
「もういいから、早く教室戻れ」
しっしと手を振る僕に、彼女は不満げに首を傾げた。
「何でですか」
「今から荒川の面談なんだよ」
「荒川くんの?」
夏休み前の面談で、荒川は野球での推薦入学を強く望み、本人が言うならと僕もそれを受け入れた。
しかし、新学期が始まるやいなや、荒川は「他大学を受験したい」と言い出したのだ。
荒川の保護者と野球部の顧問は大混乱、ひとまず今日の昼休み、僕と荒川で話をすることになった。

