だから、君に

「先生」

茶色いふちの眼鏡をかけた根岸が、肩のところで小さく手を挙げた。

「何だ?」

「問題の解説の時間はつけてくれますか?」

「解説?……あぁ、そうだな」

プリントを配って終わりのほうが、生徒にとっては都合がよいかもしれない。しかし、遺伝の問題あたりはややこしいし、何より。

「10分くらい時間とって、難しい箇所を中心にやるつもりだ」

根岸の隣に座る麻生が、いつものように不機嫌そうに僕を見ている。
言いたいことはなんとなくわかる。授業の手を抜くな、だ。

「じゃ、夏休み前の続きからやるから、教科書開いて」

そう言って黒板に向かっても、背中には強い視線を感じた。