「……変ですか?」

つぶやいた麻生の声は、いつもより弱々しく感じた。

「変?」

「その、……浴衣」

「あ、浴衣?」

僕はもう一度、ちゃんと麻生の姿を見た。

長い髪を丁寧にまとめて、暗い空気のなかで白い肌があらわになっている。
上品で、艶っぽくて、少女特有の危うい美しさに溢れていて、……なんて言ったら、気持ち悪がられるだろうな。

「いや、似合ってるよ」

「……そうですか?」

あの花火大会で、僕は由紀に、ちゃんとそう伝えただろうか。

不意に、辺りの電灯が消える。
ざわめいていた人込みが、一瞬で静まり返った。
ひゅるるるる、と空気が抜けたような音が遠くから響く。

「うん。すごく、綺麗だ」

ドン、と地響きのように花火が打ち上がり、僕の体の芯を震わせる。

僕の言葉は花火の音に掻き消されたようにも思うけれど、照らされた麻生の頬は、うっすら赤らんでいるようだった。