「それも、根岸の好み?」

「浴衣ですか?」

「うん」

「緑は、根岸くんが好きな色ですけど」

「ふーん」

女の子というのは、こうも健気にできているものなのか。

由紀の中学最後の夏、僕たち家族は隣の県まで花火大会に出かけたことがあった。

浴衣を選ぶとき、由紀はたくさんの色を鏡の前で押し当てながら、どれがいいかを僕にしつこく聞いた。

「どれでも一緒だよ」

「何、その言い方」

「どれ着たって由紀は綺麗だし」

「はいはい」

僕の言葉は半分本気だったのだけれど、由紀は受け流すように涼しい顔をしていた。

「ん、これにする」

由紀が選んだのは、薄いピンクのかわいらしい浴衣だった。

「ピンク?」

「大志、ピンク好きでしょ」

試着室の前で待つ母の元に微笑みながら向かう由紀は、とても楽しげだった。

由紀は、女の子だった。そんないまさらなことが、胸に込み上げてきて、苦しくなる。