むっとして頬をふくらませた麻生の脇を、小学生の集団が走り抜けた。

「危な、」

ぶつかる直前で強く腕を引くと、ふらりとバランスを崩した麻生が、僕のほうに倒れ込んだ。

「い、……大丈夫?」

咄嗟に胸で抱きとめると、ひどく華奢な体が腕にすっぽり収まった。
ふわり、と石鹸の香が微かに漂う。

「だ、……だいじょぶ、です」

両手で胸を押し返し、麻生は俯いたまま僕から離れた。
体勢を立て直そうと足をもたつかせるたび、カランコロン、と下駄の軽い音が聞こえる。

「……浴衣」

「え?」

「……歩きにくくないの?」

渋い緑地に小さな花火があしらわれた麻生の浴衣は、高校生の女の子が着るには少し地味にも思える。

「別に、歩きにくくなんかないです」

「そっか」

それでも今日の麻生は、いつもよりほんの少し大人びていて、ほんの少し綺麗だった。