「由紀も、蓮根よく食べてたな。家族で定食屋に行くと、僕と由紀はいつも天丼を頼んでいて」

麻生の後ろの机に腰を下ろしながら、僕は記憶をゆっくり辿った。

「僕の蓮根と由紀の海老を、交換するんだ。あれが唯一由紀が見せた、年上らしさだったな」

でも、と麻生を見下ろすと、彼女は黙ったまま、少し潤んだ目を僕に向けていた。

「でも、麻生も蓮根好きなら。あれはあれで、由紀も蓮根好きだったのかな。ギブアンドテイク、みたいな」

そう思ってもいいよな、と笑ってみせる。

今となっては、確かめることもできないけれど。

沈黙が僕らを包んで、すり抜ける風は夏なのにひんやり冷たい。

「……似てるよ」

自分でも意識しないうちに、口からぽろりと素直な気持ちが零れた。