だから、君に

誰かの痛みを救うことなんて、可能なのだろうか。

人の痛みを理解するとか、寄り添うとか。それができると思い込むことほど、傲慢なことはない。

わかったふりをすることが一番残酷なのだ。本当は、本人にしかその重さが理解できないのに。

そう思う僕は、ただ臆病なだけなのだろうか。

僕が臆病でなければ、由紀に寄り添えたとでも言うのか。

僕が臆病でなければ、目の前で泣くこの女の子を、救うことができるのだろうか。


彼女の部屋の真ん中で、体育座りをしていた由紀の姿を思い出す。

大丈夫か、と声をかけた僕に、由紀は小さく笑ってみせた。

「大丈夫」

そう言う由紀の体が震えていることに、僕は気付いていた。