だから、君に


「先生」

顔を紙面に落としたまま、麻生がぽつりとつぶやく。

「先生は、前田先生とどうなってるんですか」

「前田先生?」

僕は首を傾げた。
ホームルームのときといい、どうしてこうも前田先生ネタを出されるのだろう。

「みんな言ってますよ。芹澤先生と前田先生はできてるって」

「あぁ、そう」

「否定しないんですか」

麻生の語気が少し強まる。
僕は戸惑って、さらに首を傾げた。

「否定するもなにも、でたらめ過ぎて否定する価値もないだろ」

反応すればするほど、高校生は面白がる。関わらないのが無難なのだ。

「でも、前田先生は先生が好きだと思います」

「想像でものを言うんじゃないよ」

ゆっくり諭す僕に、麻生の声はますます尖る。

「はっきりしてください。先生は前田先生が好きなんですか」

「何興奮してんだ、お前」

「だって由紀姉が、」

名前を出したあと、麻生はハッとしたように表情を変えた。