だから、君に


「学部はどうするんだ?」

「まぁ、法学部辺りは就職に困らないかな、と」

「お前は本当にまったく……夢がないな……いや、そういう考えも大切だけど」

「芹澤先生は高校生に幻想を抱きすぎです」

「いやいや僕には麻生がかわいそうに見えてきたよ……あ、なんか涙が」

「同情するなら推薦ください」

「だめ」

軽口を叩きながらも、麻生の手はすらすらと問題に取り掛かっている。

僕は麻生と話すとき、いつもより饒舌だった。教師としてあまり適切とはいえないことも、麻生には平気で言える。まぁ、そもそも僕は適切な教師ではないけれど。

麻生に寄せる僕の不思議な信頼は、彼女が由紀の妹という事実から来るものだったのかもしれない。