「お前の成績なら、もうちょい上の大学も狙えると思うけど」
僕は彼女の前の席に座り、赤本を覗き込んだ。
正直なところ、文系科目の問題の難易度はよくわからない。
ただ、あくまで模試の偏差値から見て、麻生は他の大学を目指すべき位置にいる。
「確実に国立大学に進学したいですから」
麻生はなんてこともないようにそう返した。
彼女の母を思い、僕は少し後ろめたくなる。
「勘違いしないでくださいね、うちは割と裕福です」
僕の感情を読み取ったのか、さらりと麻生は続けた。
「離婚するとき、私が就職するまで父は養育費を負担する約束してありますから」
麻生の父−芹澤さんは、確かにかなり収入を得ていたと思う。
一緒に暮らしていたときも、僕と母の乱雑さに比して、彼の優雅な立ち振る舞いは上流階級のそれを思わせた。

