もちろん高校の授業の話であって、それがすなわち荒川の芸術の才能に繋がるか、といえばよくわからないけれど。

「先生は荒川くんが推薦もらうの、反対なんですか?」

麻生が怪訝そうに尋ねた。
僕はいや、と首筋をかいた。

「荒川の可能性は野球だけじゃないかもしれないな、なんて思って、な。選択肢は広いほうがいい」

高校生の可能性はほとんど無限だ。
それを周りの決めつけで狭めることほど、馬鹿馬鹿しいことはない。

ふぅん、と声にならない息を吐いて、麻生は広げた赤本に取り掛かった。

「麻生はもう進路は決めたのか?」

僕は温くなった缶コーヒーを開けた。ぱこん、という音と共に、ほろ苦い匂いが鼻をくすぐる。

「大学に進学するつもりです。ここ」

広げていた赤本を僕に示す。表紙には『東橋大学』の文字が並んでいた。

「東橋……。国立か」

「はい。仙台なので、少し遠いですけど」

そう言うと、麻生は肩を竦めてみせた。