グラウンドの荒川は、ユニフォームの袖で汗を拭い、駆け寄ってきた監督の話に頷いている。

彼が野球に関し、少なくとも常人より秀でた才を持つことは、素人の僕でもわかる。
ただ気になるのは、荒川がどこまで野球が好きか、ということだった。

「どうだろうな。周りは勧めてるみたいけど」

言葉を濁した僕に、麻生が顔をあげる。

「けど?」

「いや……まぁ、荒川自身の意思が気になるよな」

授業をろくに受けられないほど、部活にのめり込む荒川。

彼はほとんど全ての授業を寝て過ごす。ただひとつ、美術を除いて。

全体的に芳しくない荒川の成績において、この三年間美術だけは異常に高い評価を誇っている。
美術教師からも、荒川はかなり目をかけられていると言っていい。話を聞いても、美術の授業での彼はどうも輝いているようなのだ。