「野球部、気合い入ってますね」

放課後の生物室、参考書をたくさん机に広げながら、麻生は窓の外を眺めた。

夏の香りはじめじめした理科棟にもしっかり届いていて、日差しが僕らの肌にじんわり汗をかかせる。

「そうだなぁ……若人はいいよな」

僕は自販機で買った缶コーヒーを額に当てながら、片手でカエルに餌をやる。

文化祭が終わっても、麻生は放課後によく生物室を訪れた。
生物部は麻生の引退により、事実上なくなったも同然。しかし僕らは、なぜか引退前より頻繁に、生物室で放課後を共有することが多くなった。

「あ、荒川くんが打った」

麻生の小さなつぶやきと、グラウンドの黄色い歓声が同時に耳に入る。

外を見ると、荒川が一塁に出て、彼のファンらしき女子生徒たちがネットの向こうで声援を送っていた。

「荒川くん、大学でも野球するんですかね」

麻生は手元のノートに意味のない落書きをしながら、誰に聞くともなしにつぶやいた。