だから、君に

「でも、うらやましいです」

「うらやましい?」

帰り道、前田先生をマンションの前まで送る。金曜とはいえ飲み過ぎたのか、彼女の足元は覚束ない。

夜はすっかり深くなっていて、ぽっかり丸い月が浮かんでいた。

「私には心を開いてくれなかった麻生さんが、芹澤先生とは親しいみたいで」

「そうでしょうか……」

「……それに、」

俯いていた前田先生が、ゆっくり顔を上げる。

「芹澤先生の彼女を見る目が、少し特別な気がして。麻生さんが……うらやましいです」

月がつやつやした彼女の髪に、優しい光を降り注ぐ。

酔ってしまっているのか、目にはきれいに涙が縁取られていた。

あぁ、この人は、女なのだ。