だから、君に

部屋にひとりきりではないという状況は僕に安心感をもたらした。たくさん寝たのに、僕はまた深い眠りに落ちていく。

まどろんでいく意識のなかで、ゆらゆらと由紀の姿が揺らいで見えていた。

翌朝目が覚めると、由紀は床に転がり、本を枕に眠っていた。

朝陽がカーテンの隙間から差し込んで、由紀の短い髪をきらきら照らす。

「……由紀、朝だよ」

声をかけても、僕のしゃがれた声は由紀に届かない。

かちゃん、とドアを開ける音がして首を持ち上げると、母がひょっこり顔を出した。

「おはよう。具合はどう?」

頭痛の収まった僕は、首を縦に動かした。

母は由紀の姿を見て、あらあらと大袈裟な声を出した。

「あんたたち、すっかり家族ねぇ」

そう言って由紀を見下ろした母の顔は、見たことがないくらい優しかった。