だから、君に

パタン、とドアの閉まる音がして、僕の部屋は静かになった。

芹澤さんたちは出ていったのだろうか。うっすら目を開けようとすると、ひんやりした手が額に当てられた。

「……あつい」

由紀がつぶやいたのが聞こえた。

「うつるから、由紀はもう出ていったほうがいいよ」

「起きてたの」

「うん」

口を開くと、また頭に痛みが戻る。

由紀はベッドの脇に置かれたタオルで、僕の汗を丁寧に拭った。

肌触りのよい優しい感覚が、僕の痛みを少し和らげていく。

「この本さ」

芹澤さんが置いていった本を掲げ、由紀が僕の顔を覗き込んだ。

「先に読んでもいい?」

「……うん、いいよ」

小さく頷いてみせると由紀は少し微笑んで、床に座り込み本を読み始めた。