由紀と打ち解けたきっかけは、同居が二年目に突入した頃。
僕が小学六年生、由紀が中学二年生の夏のことだった。
長いようで短い夏休みの終わり、あろうことに僕は風邪をひいた。
発熱鼻水嘔吐。身体が鈍く痺れたように動けず、二週間僕は部屋はおろかベッドからも出ることは叶わなかった。
母はつきっきりで看病してくれ、芹澤さんは僕を心配し、毎日仕事帰りに本を差し入れてくれた。
「今流行っている少年魔法使いの本らしいんだ」
熱でぼんやりする意識のなか、芹澤さんが僕に話し掛けてくれていたのを覚えている。
「こんな分厚いの、大志のこの状態で読めるかなぁ」
少し高めで透き通るような声が、僕の耳にしんと響く。
「無理かな」
「無理だよ。絵本とか買えばいいじゃない、お父さん」
六年生男子に絵本だと。
そんなこと言うのは由紀だけだ。

