由紀は学校が嫌いだった。
もともと学校にはほとんど登校しておらず、フリースクールのようなものに通い、出席日数を補っていたのを僕は知っていた。
「なんで由紀は学校行かないの?」
同居して数カ月経ち、芹澤さんも由紀もいないとき母にそう尋ねたことがある。
母は少し困った顔をして、鍋を掻き混ぜる手を止めた。
「いつか、大志にもわかるときが来るわ」
「いつか?」
「うん。……もう少し、したらね」
あのとき理由を告げなかった母は、正しかったのだろうか。
ただ、母の複雑な表情から、あまり追及してはいけないことなのだとはなんとなく理解できた。
それに、まだ由紀と仲良くれていなかった僕は、本人に質問する気にもなれなかったのだ。

