だから、君に

「根岸、カレーパンと一緒に待ってるんじゃない」

僕の言葉に壁の時計を見上げた麻生は、あ、とつぶやいた。

「……忘れてた」

「後はやっておくから。片付けご苦労様」

はい、と頭を下げ、パタパタと足音を立てて麻生が去っていった。

根岸のレポート用紙にもう一度目をやる。

『今日昼購買行く?』

『後片付けあるから無理、カレーパン食べたい』

『買えってこと?』

『うそ』

『わかった。美紀の分も買っておく』

きっと提出するときに消し忘れたのだろう。

根岸と麻生は仲が良いのか。肩幅が広く男らしい根岸と、小柄で線の細い麻生が肩を寄せ合って筆談する様子を想像すると、ほほえましくも感じる。

最後に黒板消しをクリーナーにかけながら、僕は麻生の言葉を思い返した。

僕と麻生は全く似ていない。

そして誰かに気にかけてもらうのは、ひどくおこがましいことなのだ。