「でも先生は生物がお好きだったんでしょうね」

麻生がふきんを洗い出して、蛇口から水の流れる音が教室中に響く。

「僕は……そうでもなかった、かなぁ」

レポートをファイルに納めたとき、根岸のレポートが目に留まった。

用紙の端っこに書かれた、会話のようないくつかの言葉。

筆跡が二種類あることから見るに、誰かと筆談でもしていたのだろう。

「好きじゃないのに、生物の先生になったんですか?」

水浸しになったふきんを絞りながら、麻生は顔を上げて僕を見た。

「まぁ、嫌いじゃなかったし」

「でも、なんでわざわざ……」

そう言いかけて、麻生ははたと口を閉じた。

不思議に思って彼女に目をやると、気まずそうに顔を反らされる。