だから、君に

気分を害さないように丁寧に言葉を選んだが、由紀は無表情のまま僕の顔を見つめていた。

「変なの」

「何が?」

「大志が」

そう言って由紀は、初めて僕に少し笑いかけた。

今思えば僕に向かって素で笑ってくれたのも、あのときが初めてだったと思う。

その後僕は再び「お姉ちゃん」と話し掛けたが、教科書の角で頭を殴られて以来、素直に彼女を由紀と呼ぶことにした。