由紀は「被服室ダイビング事件」を僕の飛び降り未遂と思ったのか、一度僕に出会っていたことを両親には言わなかった。

だからといって、壊れ物のように大事に取り扱ってくれたわけでもない。

あまり口数は多くなく、無愛想でつっけんどん。
同居初期に僕がコミュニケーションを図っても、返ってくるのはつれない返事ばかりだった。

「あのさ、」

と一度、ぶっきらぼうに話しかけられたことがある。

「その、お姉ちゃん、って呼ぶの、やめて。気持ち悪い」

当時小学五年生だった僕の繊細な心は、その言葉にひどく傷ついた。

気持ち悪い、って。女子中学生が小学生捕まえて、なんてこと言うんだ。

そのとき何の事情も知らなかった僕は、ただただ由紀の冷たさに唖然とした。