ただ、とぼんやりした表情で彼は声を一層小さくした。

「ただ、近くで見ていたくて」

「……」

「あの人が、ちゃんと、しあわせになれるように」

「……しあわせに」

「まあ、今度近寄ったら警察呼ぶって、さっき言われちゃったんですけど」

乾いた笑い声をあげた後、息を詰まらせたように根岸は俯いた。

その人が、ちゃんとしあわせになるように。

根岸の言葉を、口の中で繰り返してみる。

「……麻生は」

思い出されるのは、あの女の子の笑顔。

ゆっくりと僕を見遣る根岸の目をまっすぐにとらえる。