「痛いか?」

打たれた右頬に、ペットボトルを当てながら歩く根岸を見遣る。

「いえ、平気です」

僕と目を合わせないまま、根岸の横顔が薄く笑った。

彼を家まで送ると言い張り、海沿いの道を男二人でとぼとぼ歩いているものの、何も語ろうとしない根岸に、僕は何をどう問うべきか頭を回転させた。

家族構成を思い返す。確か両親と祖母の四人暮し、姉はいなかったはずだ。

優等生で通っている根岸と、夜に働く華やかな装いの女性を結び付けそうな何かは、なかっただろうか。

気まずい沈黙を破るように、ようやく聞き取れるくらいの小さな声で、根岸は僕に話しかけた。