だから、君に

「由紀」

僕は顔をしっかり上げて、姿勢を正して声をかけた。

いつも強気に光っている由紀の瞳が、心なしか不安そうに揺れていたように思う。

「僕は、由紀の弟だから」

「……」

「これからも、ずっと」

もっとうまく、彼女を励ましたかった。
大丈夫だよ、とか、たいしたことじゃないよ、とか。

でもそれと同じくらい、本能的に気が付いていた。
由紀の置かれている状況が、大丈夫ではないことに。
そう軽々しく言える問題ではないことに。

だから、この先それが本当の意味で「たいしたことじゃないよ」と言えるようになるまで、僕たちは一緒に歩まなければならない。

由紀はいつものように、にやりと笑った。

「当たり前じゃん」

その顔はいつものように意地悪で、なのにすぐにでも泣きだしそうなくらい不安定に歪んでいた。

あの春の日、何もかもがうまくいくはずはなくても、僕たちは家族としての一歩を踏み出したつもりだった。