静かに立ち上がる音がしたあと、麻生さんが僕の背中に声をかけた。
「手紙が、あります」
「……」
「あの子が亡くなる前に書いた、最後の手紙」
最後の手紙。
いつか麻生が話していた。
「……決心がついたら、読みに来なさい」
行くよ、と彼が麻生を促す声のあと、教室のドアが閉まる音が聞こえた。
全身を支配するけだるさから、僕はへなへなと座りこんだ。
とても寒い気がする。身体の芯が冷え切り、そんな僕を、ひどく醒めた目で見つめる自分がいる。
これまでの僕を支えていたのは、由紀との思い出でも、由紀への想いでもない。
紛れも無く、『由紀の死』なのだ。
どうしようもない嫌悪が込み上げ、僕は床に拳をたたき付け、しばらく動くことができなかった。

