「……と、いうと」

黙ったままの荒川を視界の端にとらえながら、僕はゆっくり父親に問いかける。

「スポーツ推薦をこのまま利用して進学する、ということでしょうか」

「そうです」

「それはご本人の意思でお決めに?」

「こいつにはよく言っておきました」

いや、そういう問題では、と言いかけて、口をつぐんだ。

もし推薦を利用するなら、今月が最後のチャンスだ。
もう時間は残されていないといってもいい。

その前に、荒川自身が決めなければならない。

「荒川」

僕は僕の生徒をまっすぐに見る。
ずっと下を向いていた荒川も目線を少し上げた。口元は相変わらず真一文字のままだ。

「お前はそれでいいのか?」

「……はい」

薄くため息をつき、僕は手元の彼の成績表を再度確認する。
特筆すべき彼の美術の成績。美術科教員の評判。
彼自身の意思。

「もう、」

再び荒川が口を開く。
予想外に昂った声に、僕ははじかれるように顔を上げた。