だから、君に

日が暮れてしまうまでのほんの数時間、夕闇は僕たちに纏わり付く。

濁ったオレンジはずっと先まで広がっていて、遠くのビルの形に沿うようにじんわり黒く萎んでいっている。

「みかんゼリーが濁った、って。もっときれいな表現、ないのかよ」

僕は呆れて足を進めた。

十メートルくらい歩いたところでくるりと振り返ると、由紀はさっきの場所に立ち尽くしたまま、空を見上げ続けていた。

「由紀、帰るよ」

僕の声が聞こえていないのか、由紀の目は空から離れなかった。

しかたなく引き返そうとしたとき、彼女の頬がうっすら濡れていることに気付いた。

由紀いわく、濁ったようなみかんゼリーのオレンジは、彼女の涙をきらきら美しく照らしている。

僕は何も言わず、ただ何も見なかったかのように、ついと視線を逸らして彼女の気のすむまで突っ立っていた。