「………」







リンを見送り、その背中が完全に森の中に溶けた後も、ライアはその場に立ち尽くしていた。

二つの頭を持った黒馬が、気遣わしげにライアに鼻を寄せる。

その双頭の鼻面に手をやりながら、ライアはやはりリンの消えた方を見やりながら、誰に話すでもなく呟いていた。





「リンは帰って来るわ。約束したばかりだもの。
ナツメやトーガと力比べしたって、リン勝ってたもの、どんな『洗礼』だってすぐに終わらせて帰って来るわ」




一度約束した事を、不安に思う事なんてなかった。

ひどく不安になる反面、絶対的な、『帰って来る』と言う自信があるなんて事も、今まで一度もなかった。




リンに見つめられると、その瞳に見とれながら、鼓動が高鳴る自分がいる。

リンが笑うと、どうしようもないくらいに胸がしめつけられる。

何故こうも他の仲間と違うのか。

何故こうも近くにいたいと願うのか。

何故こうも触れたいと思うのか。









何一つわからないまま、ライアはただ立ち尽くしていた。