「おはようナツメ、トーガ」



双頭の馬は控えめな口調で交互に口を開く。


必ず最初がナツメ。

次がトーガ。




「リン、散歩、するか?」

「今日もライア、付いてくる」

「うん。今日も頼む」



「ライア、あまり歩けない」
「リン行く、ライア、置いてけぼり」

「ライア嫌がる」

「嫌がる」




そう言うと両の頭が照れたようにブルルと鼻を鳴らして頭を振る。

今リンが着ているノースリーブとズボンは、この黒馬が拾って来たものだ。


「…水が落ちると見えるよ。水が落ちると見える。
…水の匂いが強いよ。匂いが強いよ。…」



その呟きに思わず目を落とす。


「今日雨降るのか…?
いつからかわかるかい?」

「…少し先だよ。少し先。…月と一緒に来るよ。一緒に来る…」

「そっか…じゃあ日没までには戻らとな」







「ホッホ…もう打ち解けたか」

「メイスフォール」



振り向くと大木の上、密集した枝葉でできた闇の中にぎょろつく大きな人の目が見下ろしていた。