続けその目をギョロリと王に向け囁く。




「外傷がない所を見るに精神的な原因かと」



…なるほど。


王はふんと鼻を鳴らす。

自身の名を知らない事やその花畑に行き着くまでのことについて話が噛み合わない事もこれで納得が出来ると言うものだ。





にしても、と、王は内心ひっそりと首を傾げる。

何か、この娘と話していると感じたことのない何か。
他の人間にはなかった『何か』を感じる。






視界の端で少女がやけにおとなしくなった事に気付き少女を見ると少女はその場で寝息を立てていた。



「おやおや」とメイスフォールが楽しげな声を上げる。








「あなたを前に一片の恐れもありませんでしたな」

違和感の…正体


「……この娘、名は」

「覚えていないようですな」



会話は聞いただろうに、とは言わない。

王が人の子を気に入る兆しがあるところに水を注す程、意地悪くない。




「なら名はお前が決めろ」

「仰せの通りに」







メイスフォールは少女を背に乗せると、恭しく頭を下げ、闇に浸った森の中に姿を消した。