「処理はお前がしておけ」と言い残し、銀髪の吸血鬼は姿を消した。




リンはふらつく足どりで黒髪の羽付きに近寄り、仰向けにした。


「……やっと…会えたな…」


か細い声でチェオはリンに微笑みかける。
統制剤の影響で虚ろだった瞳の片方には本来の光が戻りつつある。



「…ずっと…唄が…聞こえてた……」



長い夢から覚めたように話すその表情には、苦痛は見えない。





「新しい…統制剤…なんだ……」




光を取り戻したチェオは悔しげに続ける。
恐らくあの日にリンが見た『毒華』もとい『リン』から精製されたものだろう。




「…効果は…以前の…統制剤とは………比べ物にならない…それから」




副作用があるんだ、と、そこまできて身体が痛み始めたらしい。
額に汗が玉になって浮いている。





「ヒトの細胞と、異人類種の細胞、の……中和効果…だ」



それは、人工で異人類種を作り出す事が出来る事を意味している。

寒気がした。




「リン……ッ」



浅い息を繰り返しながら、リンの腕を掴む。




「守れ…!……俺達なんて切り捨てて…」



所詮人は、沢山のものを守り抜く事なんてできない。

産まれたその時から、守るものなんて何一つ持たず産まれてきた。



だから、決めなければならない。







チェオの口からどろりと赤黒い血液がこぼれる。




「俺達は…飛ぶ為に、産まれたんだ………そうだろ?」








そう言って微笑む男の目から零れた一筋の涙が最後の命のように、落ちて、砕けた。