『哀シイ』と言う感情。

リン自身の中で未だ不文明、いや、忘れてしまったのかも知れない感情。

良いものではないだろうと、頭の中でとりあえず落ち着かせる。



「『哀シイ』は、出来れば知りたくないな」
「リンは哀しいと思った事、ないの?」

リンが「よくわからないんだ」と返すと、ライアが寝床から出てくる気配がした。






月光に照らされライアの姿が闇から浮かび上がる。
ライアは身を起こしたリンの横にぺたんと座り込みリンの顔を覗き込んだ。

「最初に会った頃言った通り、僕のような羽付きって呼ばれる人種は我を見失うと暴走する。
普通の羽付きなら城が開発した薬を使えばすぐに感情の起伏が起きないようにできたけど、僕にはその薬は使えなかったから、感情を麻痺させるしかなかったみたいなんだ」

ライアはキョトンと首を傾げる。

「どうして薬が使えなかったの?」
「効かない体質だったんだ」




ライアはあまりよくわかっていないような返事をすると、いつものように笑って言った。



「でも、きっとリンはこの森に来る為に薬が効かない体質だったんだわ」

「…?どうして?」








「だって、リン笑ってるもの。リンが笑うと周りがキラキラするわ。
そんなに大切なことなくなってしまってはいけないもの」


誰よりも空気を和らげる力を持つ笑顔を向けて、少女は「そうでしょ?」と付け足した。
つられるように微笑んで、一言、返す。




「そうだと…良いな」