「リンは、この森の皆が好きなのね」


ライアの嬉しそうな声が返ってくる。


「私もね?この森の皆が大好き。メイもグラジオラスも、みんなみんな優しいし。皆しか私は知らないもの」

「この森で生まれたの?」


意外にも、返ってきた返事は『否』の意。


「私2才か3才くらいの頃この森に迷い込んだの。でも森に入る前の事は変なくらい覚えてないの」

「全く全然?」

「えぇ、これっぽっちも」



幼かったからなのか、何かが原因なのか、



「初めてメイの背中に乗って星空の下を飛んだ時の事はあんなにしっかり覚えてるのに…」





考え込むような沈黙がしばらく続いたが、いつ考えても出てこない答えを捜す気はすぐに失せたらしく、ライアは話を夢の話に戻した。


「夢から覚めるとね?大切な皆をすぐに抱きしめなきゃ不安で不安で堪らなくなるの。
皆いなくなっちゃう気がしてくるの」

「いなくなる?」

「そう、誰もいなくなってしまうの。
それはとても恐ろしくて哀しい事だわ」








思わずあの日『彼女』を殺した日の事を思い出す。


白い躯から吹き出た真っ赤な血。

何も考えられなかった。
ただ、その美しい瞳に魅入りながら感じた、

押し潰されそうな程の、喪失感。