「何でもいいことねえだろ。楓を巻き込むな」

「別に巻き込んでるつもりはない」

「嘘つけよ。じゃあなんでてめえがここにいんだよ」

「だから何でもないって言ってるだろ」


イツキの胸ぐらを掴む手が離れる。

これ以上話をしても埒があかないと思ったのか、ガヤは怒りの矛先を楓に向けた。


「お前もお前もだ。こいつと二度と関わるなと言っただろうが」

「だ、だって」


…やばい。

本気の本気で怒ってる。

昔からガヤは怒ると手がつけられないのだ。

楓は近付いてくるガヤから逃げるように後退りをする。


「その子は悪くない。俺が勝手に連れ回しただけだ」


えっ、と楓はイツキに目を向けた。

ガヤが足を止めて振り返る。


「ちょ、ガヤ違う!」


楓が止めに入るも、その手は振り払われてしまう。

ガヤはイツキの胸ぐらを掴み上げ、冷たく言い放った。


「もう二度と楓に近づくな」

「心配しなくてもそのつもりだよ」


即座に返ってきたイツキの言葉に胸がちくり、と痛む。


「悪かったな」


そう言って目を向けるイツキに楓はただ首を振ることでしかできなかった。

イツキはいつもあたしに謝ってばかりだ。

イツキは悪くないのに。