やってきたのは"風神"の見張り役の小太り男だ。

なぜかその口元は緩んでいる。


「お話中のところ失礼します。楓さん、もうすぐ総長がお見えになりますよ」


――ゲゲゲの鬼太郎!


楓は慌てふためく。

やばい!
ガヤにばれちゃう。

早くここを出ないと!


「大丈夫だよ。楓さん」


するとジュンが男に耳打ちをして、それから楓に非常口から出るよう促した。

非常口なら誰とも会わないで外に出られると言う。


「楓さんが来たことは彬兄に内緒にしとくから。見張りの人にも口止めしといた。僕タク兄とカズ兄に頼まれたって聞いて、まああの二人の考えそうなことだからだいたいの察しはついてるよ」


そう言って微笑むジュンが天使に見えた。


「あ、ありがとう」

「こちらこそ今日はお見舞いに来てくれてありがとう。僕、楓さんに会えて嬉しかった」

「…あの、」

「なあに、楓さん」


鞄の中にある茶封筒が頭を過ぎる。

楓はそれを打ち消すように首を左右に振った。


「ううん何でもない。あたしも井原くんに会えてよかった」

「ジュンでいいよ。僕らタメなんだし。ほら早く行かないと彬兄が来ちゃう」

「えっあ、うん」


同じ年だということに驚いている暇もなく、楓は急いで非常口に向かう。

静かな廊下で足音だけがやけに響いた。


「楓さん」


背後から呼び止められて振り返る。


「一兄、元気?」


よほどイツキのことが気がかりなのだろう。

ジュンは眉をひそめて心配そうにしていた。


「うん。元気だよ」


と楓は答える。


「そっか。それならよかった」





――その時、


ジュンが悲しげに見えたのは気のせいだろうか。


笑っているのに、どこか泣きそう。


そんな風に感じた。