「あの日、BLASTに何もされませんでしたか?怖かったですよね」


と男に訊かれて、楓はやっと我に返る。

やっぱり男は"風神"のメンバーだった。

おそらくBLASTに初めて拉致されたあの日、迎えに来た"風神"のメンバーの中に彼もいたようだ。


「い、いえこちらこそ迷惑かけちゃってすいません。ガヤってば大袈裟なんですよ」


と楓がかぶりを振ると、男は笑った。


「あっ総長ならさっきコンビニに買い出しに行きましたよ。まったくあの総長を顎で使えるのは井原さんぐらいです」

「…買い出しってことは今はいないんですか?」

「はい。それで今は自分が代わりにここ見張ってるんです。井原さんにもしものことがあったら総長に申し訳立たないですからね」


それを聞いてひとまず、楓は安心した。

ガヤがいないと分かったら早くジュンに手紙を渡さないと。

すぐに302号室のドアをノックするが、反応がない。


「井原さんなら下で特訓中ですよ」


見かねた男が親切に一階のリハビリセンターまで案内してくれた。

中は壁全体がガラス張りになっていて、外の庭が見られるようになっている。

多くの患者がリハビリをしている中で、一人だけ空を見上げている車椅子の人が目に入った。


「井原さん、お客さんです」


男がその人に声をかける。


「僕にお客さん?」


振り向いた栗色の瞳と目が合った。

肌の白さが目にしみる。

思っていたより小柄で驚いたがその人はガヤとイツキと一緒に写っていたあの男の人に間違いなかった。

この人が、ジュン。

まるで女の子みたいだ。