突然の依頼に、楓は戸惑った。


「どうしてあたしに?」


タクマが困ったように頭を掻いている。


「本来ならオレらが渡すべきなんだろうけど、藤ヶ谷がジュンに会わせてくれねえんだ。ジュンの周りは"風神"の奴らが見張ってる。だから迂闊に近づけねえ」

「でもあたしはジュンっていう人と面識ないし…」


楓はおどおどしているとカズが苛々したように声を荒げた。


「だからお前に頼むんだよ。噂だとジュンはあの事件のせいで人間不信になったと聞いた。お前があの男の女だと分かればジュンも怖がることはねえだろうし"風神"の奴らも手出しできねえだろうからな」

「オレらで散々話し合った結果嬢ちゃんが適任者ってことで決まったんだ。頼む!」


そう言って、タクマは頭を下げた。

勝手に適任者と決められても。

大体あたしはガヤの彼女じゃないし。

いつまで勘違いしてるのよ。

でも頭を下げて頼まれたら、嫌だなんて言えない。

どうしよう―――。



「もう時間がねえ」


ぽつり、とカズがため息交じりに呟いた。


「イツキが解散宣言しやがったんだよ」


楓は目を見開く。


「解散ってBLASTを、ですか?」

「オレらは反対したけどな。BLASTがこの世からなくなるなんて考えられねえし。でもイツキは解散するの一点張りだ。理由も教えてくれねえんだよ。だから納得できてねえメンバーはほとんど残ってくれてるが、このままだと夏が終わる頃にBLASTは事実上の解散だ」


二本目の煙草に火が灯る。

苦い香りがした。