「巻き込んで悪かった。気をつけて帰れよ」
「い、いえ。こちらこそ助けてくれて本当にありがとうございました」
楓は慌てて頭を下げる。
拉致された身柄なのにお礼を言うのも変だと思ったが、イツキが助けてくれたのは事実だ。
彼があの場にいなかったら、あたしはタクマとカズにどうにかされていたかもしれない。
それは考えただけでも恐ろしかった。
楓はイツキにもう一度頭を下げてから、タクマとカズに向けて舌を出してみせた。
これでも精一杯の仕返し。
タクマは苦笑いを浮かべていたけど、カズは不機嫌そうに眉を寄せあげながら、
「あの男に言っておけ。お前の女はしつけが全くなってねえってな」
と言った。
なにを偉そうに。
そんなの自分で言えばいいじゃん。
どうせビビって言えやしないくせに。
大体、あたしはガヤの女じゃないし。
勘違いするな、ばかカズ!
とは言い返せず、情けないことに小心者の楓は心の中に留めておいた。
また拉致されたらたまらない。
そう思っていたら、タクマがにこにこと笑いながら悪びれた風もなく言った。
「嬢ちゃん、ごめんなあ。また会おうや」
…もう二度と会いません。
というかもう二度会いたくないです!