B L A S T


どうやら、楓を呼んでいるらしい。

しかしガヤの元へ行こうにも、彼を囲んでいる柄の悪い男たちが揃ってこっちを睨んでいるからなかなか近付けない。

彼らにとったら目つきが悪いだけで、別に睨んでいるわけじゃないかもしれないけれど。

裏門のそばでテツが唇を震わしながら涙目になっている。

大の男が五十人も集まれば、誰だってその迫力に怖じ気づくだろう。

タクマやカズの言葉を借りるとすれば、現に楓も今、チビりそうだったりする。

それにしてもよくもまあ、これだけの人を集めたものだ。

楓は妙に感心してしまった。

確かに助けに来いとは言ったがまさかこんなに大事になるとは思わなかった。

やっぱり暴走族の考えることはイマイチ理解できない。


「――楓、といったな」


それは空耳かと思うほどに小さな声だった。

振り向くとイツキと目が合い、彼は首を傾げていた。


「名前。楓、だったよな」

「えっあ、はい」


どうやら空耳じゃなかったみたいだ。

楓は思わず返事をしてしまったが、違和感を感じた。


――楓、といったな。


果たして、あたしはこの人に名前を教えただろうか。

記憶の中では教えた覚えはないはず。

タクマとカズにだって言っていない。

不思議に思っていると、イツキが小さく微笑んだ。

初めて見る優しい表情に不覚にもどきり、としてしまう。